鍛鍛造業が「下請」ではなく、ユーザーにとって不可欠な「パートナー」として、業界として自立し、発展し続けていくためには、十分な利益の確保が不可欠である。そのための解決策として、「技術・技能を活かした攻めの経営」以下7つの方向性を示したが、まずは下請構造の下に置かれてきた鍛造業が弱みとしている「販路開拓」の力、すなわちマーケティング力を強化することが重要である。
鍛造メーカー各社は、自社のマーケティング力を強化するよう努め、また自社の強みが発揮できる事業領域を強化していくことが必要である。
生産のグローバル化が進展する中、ユーザーから鍛造業へのQCDに対する要求がますます厳しくなっている。こうした状況に対応していくためには、鍛造業は技術や技能の向上に対して自ら積極的に取り組んでいくことが必要である。日本鍛造協会としてはこうした企業を支援するために、ユーザー産業を招いた展示会を企画するなど技術・技能のプレゼンテーションの場作り、ユーザー業界との関係強化を進めていきたい。また、他の素形材技術との競合も厳しさを増しており、ユーザーも鍛工品単体ではなく、付加価値を付けた機能部品での納入を求めるようになっている。このため、熱処理、機械加工など川下への進出を図るほか、生産性の向上、高付加価値化等に向けた研究開発を進めることが必要である。中小企業のそうした研究開発を促進するため、国の支援事業も有効に活用していくほか、技術者のOBを活用しやすい環境を整備することが必要である。さらに、「熟練技能」を絶対視せず、熟練技能のマニュアル化等に向けて分析を進め、これまでベテランの領域とされていた工程の一部を新人に分担させるなど、生産性の向上に向けた努力を続けることが重要である。
鍛造メーカーは、金型の保管をはじめ明らかに不利な取引慣行をユーザーから要請されることが多い。今後、ユーザーに対して、業界を挙げて鍛造業の重要性をアピールするとともに、各社でも「取引慣行ガイドライン」を示すなど、取引慣行改善に向けてユーザーの理解を求めていくことが必要である。
国内市場は今後大きな伸びが期待できない一方、特にアジアを中心に、海外では自動車部品をはじめ鍛工品に対する需要が大きく拡大している。国内市場のみに目を向けていては、今後事業は縮小して行かざるを得ないということを、鍛造メーカーは強く認識しておく必要がある。
しかし、中小企業にとって海外での現地生産、市場開拓は容易なものではない。このため日本鍛造協会は、海外の鍛造業界とのネットワークを強化し、現地における操業リスクなど海外情報を収集・分析し、海外での現地生産を目指す企業を支援していく。併せて海外市場における国産鍛工品の需要について調査を行い、輸出によって海外市場を開拓しようとする企業を支援していく。
設備メーカーが大幅に減少していることから、従来のように迅速な設備メンテナンスを求めることが難しくなっている。業界の自衛策として、企業同士で予備部品を持ち合い、いざというときはお互いに融通しあえる体制を構築することが必要である。
このほか、自動車産業への過度な依存を脱するために、これまで鍛工品とはあまり縁の無かった産業分野での鍛工品の需要開拓、鍛工品の用途拡大に向けた新たな材料開発等が必要となる。そのためには、異業種との連携が重要な鍵となることから、日本鍛造協会は川上・川下産業を含む異業種の業界団体とのネットワークを強化し、産学官連携のコーディネーター機能を高めていきたい。
鍛造業は自動車産業の重要なパートナーとして、自動車関連技術の進歩に対応しながら新たな製品、技術の開発を進めていくことが重要である。しかし、自動車産業にあまりに特化することは業界の健全な発展にとってプラスとは言い難い。
今後は自動車以外の多様な製品群に部品を供給していくため、材料、鍛造、後加工の三位一体の研究開発や、特殊合金、非鉄材料の鍛造技術の研究開発を促進し、これまで鍛工品とはあまり縁の無かった産業分野においても積極的な需要開拓を進めていくことが必要である。
鍛今後も我が国の鍛造業が国際競争力を維持し続けていくためには、正社員を中心に人材を確保、定着させ、そして生産技術者、熟練技能者として育成していく策を講じていくことが不可欠である。
優秀な人材を確保するためには、まずは十分な利益の確保が前提条件となる。そして厳しい労働環境についても、企業同士で情報を交換しながらできる限りの改善を進めていくことが重要である。さらに、人材確保が比較的容易な地方の過疎地への進出についても検討することが必要である。
人材育成については、若者にいかに早く技能と技術を身に付かせるかが重要な課題となっている。このため、まずは「現場の常識」について業界共通の導入教育用テキストを作成、普及を図る必要がある。また、鍛造シミュレーションなどや、ベテランの「個人知」となっている熟練技能の要素を分析したマニュアル化、データベース化により、若手による業務遂行等の支援を進めていくことが重要である。まずは業界の共通課題である金型の長寿命化に係るマニュアル化、データ化を進めていく必要がある。
しかし、熟練技能のマニュアル化、データ化には限界がある。熟練技能の若者への継承については個々の企業でのOJT、off-JTが基本であるが、各社の取組みについて事例集を作成、業界内で技能継承のノウハウに係る情報交換を進めていくことが効果的である。
若者を中心とする一般社会における鍛造業のイメージが低い、そもそも知られていない、という現状を変えていく必要がある。そのためには、地域社会や教育機関に向けた鍛造の魅力・やりがいをPRするほか、他の素形材産業とも連携しながら学校関係者に対してものづくり教育の重要性をアピールしていくことが重要である。また、素形材産業のPRに向けた国の施策に対し、業界として積極的に協力していくことが必要である。また、鍛造工場と地域住民の共存を図っていくために、鍛造メーカ各社は騒音・振動の低減に向けて努力するほか、地域社会の一員として住民に迎え入れられるよう、日頃からの交流等を深めることが重要である。さらに、やむを得ず都市部から地方に工場を移転させる鍛造工場が、再び騒音・振動問題で操業が難しくなるような事態とならないよう、日本鍛造協会は適切な工業立地政策の運営を関係省庁に求めていきたい。